千葉県公安委員会 第44170075号

離婚を考えた時に必要な事

50代女性が敢えて選んだ「熟年離婚」以外の楽な生き方。

ゆる~い同居人」となった夫婦の現在

熟年になって、婚姻関係を維持しながら双方の同意のもと、別居する夫婦は増えている。一方で、別居となると経済的にも大変なので、話し合いながらだんだん「ゆる~い同居人」として暮らすようになったと語る夫婦もいる。

結婚20年、息苦しくなった「夫婦でいること」

結婚して20年を越えたころから、「夫婦でいること、結婚していることがなんとなく息苦しい気がしてきたんですよ」と言うのは、マサヨさん(53歳)だ。彼女が社内の同期と結婚したのは28歳のとき。

「子どもふたりは今、24歳と21歳。長男は大学時代から家を離れていました。長女は大学生で同居していますが、大学に入ったころから自分のことはすべて自分でやるようになり、私は食事を作ることもありません」

コロナ禍で一時期、家族3人が顔をつきあわせていたこともあるが、マサコさんはコワーキングスペースなどを借りて仕事をするようになり、娘もマイペースに学習。夫は仕方なく、ひとりで食事を作ったりしていた。

その後、夫と私は出社するようになりましたが、もう『食事の支度もやめるわ』と宣言しました。夫は最初のうち、『一緒に食べよう』としつこかったんですが(笑)、今は月に1回程度、3人で食卓を囲む以外は、それぞれ勝手にやっています」

本当は家事などしたくないはずの夫だが、その前からやらざるを得ない事態に陥っていた。

4年前、ひとり暮らしだった夫の母が急逝した。その1年ほど前から夫はときどき実家に手伝いに通っていたのだ。掃除や料理も、必要に迫られてやるようになった。そして実家が空き家になったあと、夫は月に1、2回通うようになった。コロナ禍でも車でときどき行っていた。

「夫としては定年後、私と一緒に実家に越したかったらしいですが、『私は無理』、そう言ったら、ひとりで行くように。私はまだ両親が健在ですが、そろそろ父が弱ってきていますね。ただ、介護が必要になっても夫に協力を求めるつもりはありません」

お互いに割り切ってそうなったというわけではない。夫は母親が生きているころから、マサコさんに一緒に行くことを強要しなかったから、マサコさんも強要しないと決めているだけだ。夫にとって、妻の両親は、やはりどこまでいっても赤の他人なのだから。

「私も仕事がありますし、どうにもならなくなったら施設に入ってもらうしかないと思っています。無理して引き取ったりしたら、共倒れになりそうだから」

夫にはそのことを伝えてはいないが、マサコさんは覚悟を決めている。

快適な今の暮らし

「平日は夫のほうが早く起きて、出社していきます。朝ご飯も食べていってるんじゃないですか。そのあたりは気を遣わないことにしています。私はフレックス制なので、出社はだいたい10時頃。その日、何時に帰るかも娘を含めて誰にも連絡はしません。それでも娘とは連絡を取り合うことが多いですね。夫とは数日、顔を合わせないこともあります」

ほぼひとり暮らしのような感じだが、これが意外と快適なのだという。自分の分の家事だけやり、風呂やトイレなどの共用部分は週替わりで3人で分担する。あとは何時に帰ろうが、どこへ旅行しようが、誰にも何も言われない。

「ホワイトボードが用意してあって、帰宅しないときは記入することになっています。一応家族だから心配するので。私は今月、23日から26日まで旅行、と記しました」

どこへ行くのかとは誰も聞かない。帰ってきたら土産話くらいはするだろう。娘の欄には来月半ばから2週間ほど旅行と書いてある。海外に行くと聞いているとマサヨさんは言った。

「大人3人が、ゆるく繋がりながら同居している。そんな感じですね。誰かが話を聞いてほしいと言うなら聞く。でも仕事を持ち帰ることもあるので、そういうときは部屋にこもる。みんな適当にそうやって生活しています。特に困ることもありません」

子どもたちが大学に入ったころから、望んでいた自由が転がり込んできた。マサコさんはそう言う。だが、彼女も主婦歴、母親歴が長い。どうしても「私が面倒を見なければ」と思ってしまうことはないのだろうか。

「最初はちょっと寂しかったかもしれませんね。いつもしていたことをしなくていいとなると、誰からも必要とされなくなっているような気がして。娘にそう言ったら、『ママはママの人生を歩けばいい。それでも私のママであることには変わりないでしょ』って。そうか、今までずっと家族のために自分の時間を使ってきたけど、実際はもうずいぶん前から、子どもたちは、家事要員としての私を必要としていなかったんだなとわかりました。

自分のために生きよう、生きていいんだと娘に背中を押された。だから夫にも、もう家事はしない宣言ができたんだと思います」

夫もまた、実家に通うことで生活上の術やスキルを少しずつ身につけていた。だからそれぞれが自分本位に生きることができるのだろう。

「家は単なる箱。子どもが小さいときはその箱の中で、夫と私が協力しあって子どもたちを守らなくてはいけないけど、みんなが大人になったら、その箱は好きなように使えばいい」

うちはバラバラな生活をしているけれど、誰かが本当に困ったら、おそらくみんなで助け合うんじゃないかなと、マサコさんは控えめに笑った。

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